ワイドの本棚

【ワイドの本棚】『マチネの終わりに』(平野 啓一郎:毎日新聞出版)

 

言葉では上手く説明できなくて、誰にも伝わらない気持ち。
でも、始めて会ったその人は理解し、共感してくれた。
そんな人に出会ったら。

※ネタバレありますので、未読の方はご注意ください。

歯がゆい恋

天才クラシックギタリスト蒔野聡史(38歳)。国際ジャーナリスト小峰洋子(40歳)。
薪野のコンサートで知り合った二人は、お互い強く惹かれていくが、洋子には既にフィアンセが・・・
物理的な隔たりや年齢的な迷い、また相手を尊重する気持ちが慎重にさせ、二人はじれったいほどに進展しない。
一方で、蒔野に思いを寄せる三谷早苗(30歳)の、ストレートで、純粋で、自己中心的なまでの行動は、二人の関係に大きな影響を与えていき。。。

アラフォー二人の恋愛がメインテーマではあるが、それに様々な社会問題を絡め、話に厚みを持たせている。
テロ,難民,PTSD,原爆被爆,サブプライム問題,DV,民族紛争,内戦 etc. etc.

そして、
洋子は、両親の愛とナショナリズム。
薪野は、スランプから再生への道のり。
といった、人生を半ばに生きる意味を見つめ直すことが、二人にとってもう一つのテーマであったのだと思う。

過去を変える

“人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える、過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?”

これは、二人が出会ったシーンで、蒔野が言った一言。この「未来は常に過去を変えている」というフレーズは、何度も物語のポイントで出てきます。
途中、紆余曲折あり、二人は結ばれることなく別々の道を歩んでいくが、最後のマチネのシーン、そしてラストの再会、という未来は、二人の過去をどのように変えるのだろうか。

最後に

著者は、第120回芥川賞受賞の平野啓一郎氏。
純文学的で読みづらいのかと想像していたが、丁寧かつ美しい文章で、とても読みやすい。
クラシックギター曲をBGMに読めば、切ない音色がより一層物語の世界に引き込んでくれる。おすすめ。

 

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